翻訳業界の大御所インタビュー【外国人との言葉の壁・コミュニケーション・国際人の育成方法】【後編】
2019年1月26日土曜日
翻訳関係に携わる企業はもちろん、外国人雇用を考えている企業、すでに外国人を雇用している企業の方、必見の内容となっております。
外国人雇用が拡大する中、外国人が日本に来てする仕事で代表的なもの、英語の先生、翻訳の仕事、IT関連など思いつく人も多いと思いますが、
今回はその中から「翻訳の仕事」に焦点を当てて見たいと思います。
今回インタビューさせていただいたのは、翻訳業界でも医療翻訳に精通し、大御所と言える存在の中村元則さん。
中村さんは約60年間、日本の翻訳業界に携わり、日本ではもちろんのこと、海外でも大活躍されている翻訳者の一人です。
優しい表情、穏やかな話し方とは打って変わって、仕事に関する専門知識の豊富さ、また培って来た経験がにじみ出る、また仕事への熱意に心を打たれるインタビューとなりました。
この後半ではもう少し突っ込んだ医療翻訳の専門的な、
「医療翻訳のお金事情・1日のどれくらい翻訳するのか・用語集や翻訳ツール」
などお話をお届けしたいと思っております。
前編では日本の翻訳業界(特に医療翻訳)について、また外国人と共に働くことへのポイント、またこれから普及していくであろうAIについて、
など内容の濃い質問をさせていただいています。
前編はこちら
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中村元則 69歳
病院の検査技師に就職。
その後アメリカ、ボストンの大学へ留学。
のちに40歳で工業大学へ再入学。
ここで勤めていた病院をやめ、医療系の機械を取り扱う外資系の会社へ転職。
この外資系企業の本社がマイアミにあり、医療系のソフトウェア、コンピューターに関わるものを全て日本語に翻訳するという仕事をまかされる。
その外資系企業で18年務める。
医療機械、医療の専門用語を操り、またソフトウェアを扱うために再入学した工学の知識を生かし、会社内でプログラミングの業務もおこなう。
当時から「機械の仕組みもわかり、医療の専門用語も熟知する、とても面白い逸材」といわれてきた。
現在は、みずから企業と提携・契約などし、医療専門の英和翻訳、和英翻訳をおこなっている。
コンピューターのプログラミング、医療機材への知識、病院に関する知識、外国語能力、これらすべてを持ち合わせる逸材は他にはなかなかいない。
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Q7:医療翻訳のお金事情
「世界的に医療翻訳と特許翻訳は、翻訳の仕事の中でも、単価が高いと言われていますが、日本ではどうでしょうか」
医療は高いと思いますよ。
最近は、特許関係の講座が増えてるんですよ。
あと、僕が行ったのは治験専門の講座。
特許も治験もそうだけど、最近は専門用語を扱うところが増えてきていると思います。
特許翻訳の例を出すと、僕の友達で弁護士でその彼は法学部をでてるんだけど、法学部の後に工学部に一緒に入ったんですよ。20年前の話ですけどね。
なぜかというと、弁護士でも今後特許関係が必要になってくるから。
弁護士は文系だけど、特許関連は工学系。機械の部品などで特許をとる場合が多いからね。
だから工学系の知識がないと、うまく特許の文章をかけない。
ということで、彼も弁護士をやりながら一緒に工学部も受けてました。
そういう人もいるんですよ。
Q8:翻訳業界でも医療翻訳は特殊
「例えば貿易の翻訳をしている人が小説の翻訳など多種の翻訳もしたりしますが、医療の場合は他の翻訳もするのですか?」
医療な場合は特殊で、たまに他の業種をやる人いるけど、実際ほとんどいません。
実は去年、私もとある契約書の翻訳を頼まれたんですよ。
それはアメリカの会社が作った書類だったんですけど、商法の専門用語すぎて、意味は分かるんですけど、正しい日本語への訳し方が全然わからなくて。
だから、特に専門性を問われるような、細かい内容のことは、専門家じゃないと僕は無理だと思います。
Q9:医療業界の翻訳ツール
「翻訳業界の中では、翻訳支援ツールがたくさんあります。例えばイザナウを運営するアクティブゲーミングメディアが使ってるのはSDLトラドスというドイツ製のツールですが、医療翻訳の場合はなにか主流の翻訳ツールがありますか?」
トラドスは僕は使ってないです。あれ十何万するのよ。ソフトが。
医療の場合でも使っている人もいると思うけど、僕は使ってない。
僕のやっているのは医学の中でもものすごく特殊な、臨床検査の機械などだから、自分でソフトみたいなものを作ったりしている人もいますよ。
Q10:1日で行える文字数とワード数と文字単価
「英和翻訳、和英翻訳の処理できる文字数とワード数は、1日あたりどれくらいですか?また1文字いくらくらいですか?」
標準的には医療翻訳は1日8000語とか言われているけど、僕の場合はあてはまらない。
なぜなら至急と言われたら絶対1日徹夜でもやりますし。
だから1日の処理量は僕の場合はわかりません。
ただ、一般的には、1日の翻訳量は、
英語⇨日本語で平均2000英単語、日本語⇨英語で4000文字数くらいですかね。
翻訳料金は、一般翻訳の和文英訳の時和文1文字あたり5円から10円だと思いますが、
医療関連のような特殊な和文英訳では、和文1文字あたり20円平均ですね。
Q11:翻訳料金の昔と今
「中村さんがこの業界に入った時と今現在では平均単価は変わっていますか?ゲームの場合は以前は、和英翻訳1文字20円以上だったものが、今は1文字3円〜になっています。医療の場合は今でも高いイメージがありますが、どうですか?」
昔は一般的に英和翻訳は1つのワードが10円くらい、和英の場合は12〜13円だったと思う。
英和よりも和英の方が高かったと思います。
ちょっと余談になりますが、
最近、医学の方で一番要求されるのは、治験翻訳。
新薬が出た場合に、その検査手順を全部明記しないといけないんだけど、アメリカのFDAという日本の厚労省のようなところがあって、そこが全部牛耳ってるわけよ。
だから、日本で新薬が出てもFDAの許可を取らないとなかなか世界的には売れない。
日本の厚労省でとれても日本だけでしか売れない。
武田製薬でもそうだけど、製薬会社は合併を世界中でいっぱいしてるわけよね。
世界的なライセンスを取らないと世界では売れないから、トップがアメリカFDAなので、全部英語で申請しなければならない。
逆に海外のものは日本語にしないといけないけどね。
治験でうまくいけば、ものすごく莫大なお金が動くわけですよ。
何千億という。だから、今医学の分野ではそこが一番進んでるというか、競争が激しい。
Q12:医療翻訳業界の仕事の取り方
「医療翻訳の仕事は、どこかの翻訳会社などを通して依頼があるのか、または企業から直接仕事依頼がくる場合もあるのですか?」
企業から直接っていうのもありえますよ。でも、企業との繋がりがある場合のみですが。
企業との繋がりが無かったら、直接というのはないですけどね。
私のバックグラウンドが、医学やって、アメリカへ留学して、工学部でプログラミングもやって、それら全部の知識があるからっていうのもあるけどね。
その3つをできる人はなかなかいない。
マニュアルの中に医学関係の言葉は出てくるし、コンピューターのちょっとしたことも出てくるし、その辺のプログラムも出てくるし。
15年ほど前に、最近流行りの医療用のAIも作ったんです。
そこではどういう風にしてAIを作るかということを、海外のプログラマーとやりとりしないといけない。
今はその会社は吸収合併されてスウェーデンの会社になったけど、マニュアルなども翻訳したけどね。
その場合も、医学とコンピューターと両方の知識がないとできないです。
なので、企業からの仕事依頼もありますけど、みんながみんなというわけでは。
Q13:医療業界の用語集
「翻訳する前にまず用語集を用意して用語集を作成してから翻訳しだすのか、または最初から原稿を読んで、すでに持っている用語集を使うのか」
用語集はつくります。
まずPC用の医学辞典というのがあります。僕も持ってます。
今までは10センチほどの幅の医学用語辞典という本がありましたけど。
医学ではその中からさらに、各分野の専門用語があるんですよ。
例えば産婦人科とか内科、外科とか。
医学全般やる人は、それら全部やらないといけないので、とにかくそれら何種類かの医学辞典、用語集はパソコンの中におさめています。
僕が昔やってた臨床検査の専門用語の辞書もあります。あんまり使わないけどね。
レントゲンが専門だったり、AIが専門だったり。用語集と言っても、医学の中ではいろいろありますよ。
いかがでしたでしょうか。
医療業界で長年翻訳を経験されている中村さんは、医療翻訳という仕事への思いとともに、専門性が高いが故の責任感を高く持たれていることに、感銘を受けながらのインタビューとなりました。
About the Author
外国人のプロを日本に紹介することが、私のミッションであり、宿命である