翻訳業界の大御所インタビュー【外国人との言葉の壁・コミュニケーション・国際人の育成方法】【前編】
2019年1月19日土曜日
翻訳関係に携わる企業はもちろん、外国人雇用を考えている企業、すでに外国人を雇用している企業の方、必見の内容となっております。
*この記事はイザナウを運営している株式会社アクティブゲーミングメディア(130人中6割が外国人社員)のスタッフによって作成されています。
外国人雇用が拡大する中、外国人が日本に来てする仕事で代表的なもの、英語の先生、翻訳の仕事、IT関連など思いつく人も多いと思いますが、
今回はその中から「翻訳の仕事」に焦点を当てて見たいと思います。
今回インタビューさせていただいたのは、翻訳業界でも医療翻訳に精通し、大御所と言える存在の中村元則さん。
中村さんは約60年間、日本の翻訳業界に携わり、日本ではもちろんのこと、海外でも大活躍されている翻訳者の一人です。
優しい表情、穏やかな話し方とは打って変わって、仕事に関する専門知識の豊富さ、また培って来た経験がにじみ出る、また仕事への熱意に心を打たれるインタビューとなりました。
そんな中村さんに今回は、日本の翻訳業界(特に医療翻訳)について、
また外国人と共に働くことへのポイント、またこれから普及していくであろうAIについて、
など内容の濃い質問をさせていただいています。
翻訳関係に携わる企業はもちろん、外国人雇用を考えている企業、すでに外国人を雇用している企業の方、必見の内容となっております。
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中村元則 69歳
病院の検査技師に就職。
その後アメリカ、ボストンの大学へ留学。
のちに40歳で工業大学へ再入学。
ここで勤めていた病院をやめ、医療系の機械を取り扱う外資系の会社へ転職。
この外資系企業の本社がマイアミにあり、医療系のソフトウェア、コンピューターに関わるものを全て日本語に翻訳するという仕事をまかされる。
その外資系企業で18年務める。
医療機械、医療の専門用語を操り、またソフトウェアを扱うために再入学した工学の知識を生かし、会社内でプログラミングの業務もおこなう。
当時から「機械の仕組みもわかり、医療の専門用語も熟知する、とても面白い逸材」といわれてきた。
現在は、みずから企業と提携・契約などし、医療専門の英和翻訳、和英翻訳をおこなっている。
コンピューターのプログラミング、医療機材への知識、病院に関する知識、外国語能力、これらすべてを持ち合わせる逸材は他にはなかなかいない。
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Q1:日本が国際人を育成するには
「これから日本企業もグローバル化がさらに進むと思いますが、国際人を育てるためには日本はどうしていけばいいでしょうか?」
私の経験からすると、やはり留学するなり、外国人の中で揉まれることが必要だと思います。
文化的なバックグラウンドが日本人と外国人では違うので、どうしても日本人の場合は例えば、会議で消極的になって発言をしなかったりするので、まずディスカッションができない。
それは国際的な環境的な中でね。外国人に圧倒されてしまう。
最近は、会社内でもどんどん語学教師を雇っているところもあります。
ただ語学教師を雇って英語を習得させるのと、仕事をするというのは全く別物。
仕事をする上で英語ができても仕事ができないかもしれないし。
だから、英語ができて、且つ仕事の内容の理解も必要だし、
英語ができない人でも仕事の中身でディベートができる、そういう人が必要だと思うので、日本人は黙っていることは絶対にダメ。
特に外資系の企業で、日本人と外国人と一緒に仕事をする場合は特にね。
Q2:外国人とのコミュニケーションについて
「これから日本の会社にも外国人がたくさん入るけど、日本の会社の多くがためらっている。外国人とうまくやっていくには、どうしたらいいと思いますか?」
これは実例だけど、わたしの姪っ子がね、パソコンの会社に勤めていて、その会社が語学教室も取り入れていたんですね。
だから、外国人の教師がいっぱい入ってきた。
そこで姪っ子が、
「どうしたら外国人とコミュニケーションができるの?」
と質問をしてきたんです。
だから、答えましたよ。
「自分から話していくこと。待っててはダメだから、顔見たらおはようでも、Hiでも。
とにかくHi でもいいから話す。そうすると、向こうも日本語を勉強したいし、こっちも英語を勉強したいしね」
わたしも以前とある場所で、外国の方に英語で話しかけたんですよ。
そしたら、日本語を勉強したいので日本語で話してくださいと言われたんです。
Q3:アメリカ人の英語能力、日本人の英語能力について
「弊社のおこなうゲーム翻訳では、一般的に日本人には英語の言い回しができないので、
英和翻訳しかできないというのが一般的ですが、医療の場合は和英翻訳もおこないますか?」
僕は英和も和英も両方やります。
僕の場合、留学時代に、向こうの参考書(医学関係の)をものすごく読み込んでるんですよ。
だから、英語のセンテンスのニュアンスとかが分かるので、英和と和英両方やります。
文法的に分かると、逆にアメリカ人の英語が全てうまいとは思わないし、アメリカ人の英語は間違っているところがいっぱいあります。
センテンスSVOが取れてないのよ。日常会話的な文章を書いてしまう人もいる。
前の会社でも、アメリカ人に一度作ったマニュアルを全部書き直させたこともあったから。
「このマニュアルだめや」と伝えてね。
海外の会社の場合、スクリプターと言う文章の作り手がいるんですよ。
その人が、機械の仕組みを聞いて、それを翻訳して文章を作るわけ。
そうすると、スクリプターその人の考えがいっぱい入ってきてしまう。
スクリプターがつくる文体はものすごく難しいものになるから、理系工学系の機会を扱う人がそれを読むと、全然理解できないんです。
機械の説明の序章というか、最初の部分がもう難解な言葉でね。
向こうの人は難解な言葉を使うと「わたしはよく知っているでしょ」というプライドを持つ風習があってね。
だから機械のマニュアルなのに、それをさらに難解な言葉で使うから、ユーザーとしては意味がわからない。
だからスクリプターに「これはダメや。わからない。だから書き直せ」と言ったんですね。
最初は言われた本人も信じなかったんです。
だから他のアメリカ人の同僚にいったんですよ「この文章わかるか?わかったら俺に説明しろ」と。
すると
「機械も全部しってるから用途はわかるけど、この文章はなにいっているのかわからん。お前が正しい。書き直させる」とね。
だからそういうことがあるので、アメリカ人とかイギリス人が書く英語が全て正しいとは限らない。
翻訳というのは、その業界に通じた人がやるのが一番いいと思う。
上写真は20年前、ウィーンで活躍時の中村さん
Q4:言語の壁について
「日本人が英語ができない、外国人は日本語ができない」
という言語の壁がありますが、日本企業が外国人を雇用するときの言語の壁はどのように打破していけばいいと思いますか?」
この問題は、まずその会社自体が日本国内をメインにするか、それとも海外に出ていくのか、によって大きく違って来ます。
例えば、パナソニックで働いていた昔の友人との話ですが、あそこの会社は外国の方をたくさん雇うんですよ。
日本で外国人を教育して、5年くらい教育したらまた自分の国へ返すんです。
日本の文化を理解させ、、製品慣れをさせ、いかにその製品売り込むかということを教育して、元来た国へ戻すんです。
その人はメキシコ人だったけどね。
だから日本語もペラッペラになるし、日本の商品の売り方もわかる。
その人はそういうことをやってましたね。
会社によって異なってきますけど、ちゃんと考えたら、できることはたくさんあります。
Q5:翻訳業の将来性について
「40年ほど前は、翻訳は花形のような仕事でしたが、
最近では、翻訳はAIなどの人工知能がやるものなので将来性がない職業だ、など言われがちです。これについてどう思われますか?」
そうですね。よくメディアでも、翻訳はAIが今後おこなうので、これからは必要無いと言われていますね。
スマホにだっていっぱい翻訳ソフトが入っている。だから一般的に言うと必要ない。
経済や政治など、言葉として違和感がないと取れるところでは、すでにどんどんAIを使っているんですよ。
僕の会社で14、5年前に、医療機械のマニュアルを10ヶ国語くらいに訳すという業務があったんですよ。
それまでは10ヶ国語までの数はなかったので、日本で僕がやってたんですけど、
会社自体もグローバルになり、さすがに10ヶ国語は無理なので、中国の会社に丸投げしたんです。
で、中国の会社が訳してくれた日本語を確認すると、日本語だけど日本語じゃないのよ。
微妙なところ、いわゆる「てにをは」などが全くおかしな日本語だから、それを日本のユーザーに持ってっても突き返されたんです。
「機材は何千万する機材なのに、こんなへんてこなマニュアルつけてくるのか?!」
ってね。だから結局僕が全部訳し直したの。
アメリカの本社にもそれを伝えたんだけど、帰ってくる言葉は、
「日本語でしょ、じゃぁ、いいじゃん」
まぁ、それがグローバルな考え方。
だけど、日本のユーザーはとてもシビアだし、ましてや医療機械だからね。
こんな経験もあるし、だからこれからの時代、AIがどこまでできるかどうかは分野によっては疑問ですね。
Q6:翻訳業界で働きたい、または働いている人へのアドバイス
「これから医療翻訳をやりたい人に向けてのアドバイスはありますか?」
一番いいのは、まず医療業界(自分がやりたい翻訳分野の業界)に入ること。
でないと、意味がわからない。特に医療は。
一番いいのは、病院でいた技師とか、いろんな技師があるんですよ。
あとは看護師さんとか、言葉だけど医療用語をわかろうとするのははっきり言って無理です。
というのは、それが人命に関わるから。
だから事務員でもなんでも、とにかく病院の中で経験すること。
そうすると、専門用語とか略語とかいっぱいあるんです。
特に医療業界は。だからそれを知らないと、医療業界は無理だと思う。
もともと医療業界はドイツ語から入ってるんですよね。
ドイツ語がもともとあって、お医者さんが特にドイツ語でカルテを書く時に、今全部英語だと思うけども、僕が病院にいた50年前は全部ドイツ語だったんです。
だからドイツ語必修だったんです。
たとえばアペンディクス。これは盲腸のことね。
カルテチュ。病院の中にはドイツ語がいっぱいあるんです。
それが今でも若い医者は英語が多いけども、ちょっと古いお医者さんはドイツ語の専門用語を使うから。
だから医学系の人は、英語以外にドイツ語が必修だった。
多分最近はないかもわかんないけどね。
最近は、主流が全部英語なので、もうないと思いますけど。
でも知ってた方がいい。バックグラウンドのない人に、医学の翻訳頼まれたことがあるんですけど、いわゆる難しい。実際にものを見て翻訳してるのと、辞書だけでするのは全然違うんですよね。
まずは医療業界に入って、ものをどんなんか勉強した方がいい。
これは無理かもしれないけどね。なかなか病院は事務以外は資格を取らないと入れないから。
これはどの業界にもいえることだけどね。その業界に身を置いて、それをしっかり知ること。
そうすると、訳する時に全然重みが違うんですよ。
だから、それはバックグラウンドにその業界で経験がある人かない人かは、訳文を読めばすぐわかる。
いかがでしたでしょうか。
後半はもう少し突っ込んだ翻訳の専門的な、
「医療翻訳のお金事情・1日のどれくらい翻訳するのか・用語集や翻訳ツール」
などお話をお届けしたいと思っております。
後半も乞うご期待!
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外国人のプロを日本に紹介することが、私のミッションであり、宿命である